アメリカのNCAA(全米大学体育協会)のスポーツの人気はすさまじい。
例えば、カレッジフットボールではディビジョン1に所属するチームの会場には多いところで10万人を超える観客がスタジアムに押し寄せ、地元チームを学生や地域の人々が熱狂的ファンとして観戦する。そして、スポーツ専門放送局のESPNやテレビ各局は注目カードを連日中継し、その放映権料は年間200億円とも言われており、その人気ぶりが数字からもうかがえる。
また、この3月からが最も全米が盛り上がると言われている男子カレッジバスケットボールのトーナメント”マーチ・マッドネス”(3月の熱狂)にいたっては、大会期間中はオフィスで働く人たちが試合が気になって集中して働けないことから生産性が低下することで約1000億円もの損失があるというレポートがあるほどだ。
この”マーチ・マッドネス”は、全米から各リーグで上位の成績を残した68チームが出場し、トーナメント方式で全米No.1を決定する大会で3月から4月頭にかけて約1ヶ月間4つのパートに分かれて全米各地で試合が行われる。日本人選手としてはゴンザガ大の八村塁やジョージワシントン大の渡邊雄太が活躍し、日本からの注目も集まっている。この”マーチ・マッドネス”の組み合わせが決まると、全米のバスケファンのみならず多くの国民がブラケット(トーナメント表)の勝ち上がりの予想合戦が始まる。
この予想は極めて難しく、あの世界一の投資家であるウォーレン・バフェットが”マーチ・マッドネス”の勝ち上がりを全て的中させた者には10億ドル(約1100億円)の賞金を出すことを約束したというエピソードもあるほどだ。それほど、予想を覆す”番狂わせ”が起こるということでもあり、それがさらにアメリカ国民を熱狂させているのも間違いないだろう。
そして、もちろんスポーツベッティング(スポーツの結果にお金を賭ける)も盛んに行われる。アメリカでは現在、ラスベガスのあるネバダ州など一部を除いてはスポーツベッティングは合法化されていない。どうしても、ラスベガスのイメージが強くてアメリカ全土でギャンブルが行われていると思われているが、実はスポーツベッティングが行える場所は限定されているのだ。
とはいえ、アメリカのスポーツベッティング熱もすごい。NCAAのバスケットトーナメント”マーチ・マッドネス”でラスベガスのカジノは約1ヶ月の間に100億円もの売り上げを出すのだ。もちろん、勝ったり負けたりするのだけれども、儲けだけでもコレだけの数字なのだからその数十倍ものお金が動いていることは間違いないだろう。
これはあくまでラスベガスだけの話で、実は全米ではインターネットを通じてスポーツベッティングを行う「ブックメーカー」などもあって、それを通じて大金を賭けるビッグパンターも多数存在する。アメリカ国内だけでも少なく見積もっても年間約3000億円ものお金がスポーツギャンブルに投じられているのだから、”マーチマッドネス”はアメリカ国民のスポーツベッティングへの熱狂と言い換えることもできるだろう。
このアメリカの状況は、日本も似ているところがある。現在、日本ではカジノ合法化に向けて国会での議論が進んでおり、”カジノ解禁”は時間の問題となっている。そんな中で、多くのスポーツベッターは海外政府のライセンスを受けて合法的に運営されている「オンラインカジノ」などを通じて世界中のスポーツ、あるいは日本のJリーグやプロ野球などの試合にお金を賭けているのが現状だ。
さすがに、日本の大学スポーツが賭けの対象になっていることはないであろうと思っていたが、実は昨年、大学サッカーの男女全国大会「インカレ」のオッズがブックメーカーから発表されていたのだ。これにはさすがに驚いたが、確実に日本の大学スポーツにもスポーツベッティングの賭けの対象に入ってきていることは間違いない。そのうち、日本で最も注目度が高い「箱根駅伝」などもオッズの対象になるのではないかと私は思っている。
話をアメリカの大学スポーツに戻そう。アメリカでは大学スポーツなどのアマチュア競技に対してオッズなどを提供し、賭けを募ることはネバダ州を除いては原則的に禁止となっている。これは、1992年に制定された連邦法”The Professional and Amateur Sports Protection Act of 1992(PASPA)”(プロ・アマスポーツ保護法)によって定められたものだ。
しかしながら、現状としてはアメリカ国内においてもインターネットなどを通じて容易にブックメーカーなどに参加することが可能で、このコラムで紹介したNCAAのアメフトやバスケに加えて、野球やバレーボールなどのベッティングを行うことは容易なのだ。
このような現状から、現在アメリカではこの「PASPA」を無効にすることを含め、スポーツベッティングを米国全土で解禁するように働きかける動きが活発に行われている。その旗振り役がNBAのアダム・シルバーコミッショナーだ。
彼は「アメリカ全土で多くのファンがスポーツベッティングを楽しんでいることは明らかだ」として、これを禁止するのではなく合法化することで、かかわる人たち(チーム、リーグ、自治体など)はそこから透明性のある収益として有効に活用した方が良いと考えているのだ。日本でも一時期話題になった”闇カジノ”など地下でお金が動くよりも健全だということであろう。
ニュージャージー州は、このPASPAの適用を自州から外すように最高裁に求めるなど、アメリカ全土でのスポーツベッティング合法化の波は日に日に増している感がある。
一方、NCAA側はスポーツベッティングについてどう考えているのか?
大学のスポーツディレクターなどへNCAAが独自に調査を行った結果、スポーツベッティングをアメリカ全土で合法化させることにその80%が消極的であることが明らかとなった。ただ、NCAAとして正式にスポーツベッティング合法化への反対を表明しているわけではなく、推移を見守っているところであろう。
スポーツ大国であるアメリカが、大学スポーツに対してスポーツベッティングをどのように適用させていくのか?アメリカのスポーツベッティング合法化の動きに注目していきたい。