賭け事に対してアレルギーを持つ人は多いかもしれないが、必ずしもそうではない。紳士の国であるイギリスのブックメーカーは、世界中で蔓延している新型コロナウイルスで苦境に立つ医療機関へオールベット(全額ベット)を行った。
イギリス競馬で国を挙げて盛り上がる障害レースの祭典「グランドナショナル2020」は、新型コロナウイルスの蔓延によって中止を余儀なくされた。しかし、その代わりにバーチャル空間で行われた「バーチャルグランドナショナル」を開催し、イギリスの老舗ブックメーカーであるウィリアムヒルら7社と英国トートグループが売り上げた収益260万ポンド(約3億4840万円)を英国民保健サービス(UK’s National Health Service)に全額寄付すると発表した。
“リアル”なグランドナショナルが開催されなくても、“バーチャル”が見事にカバーしてイギリス国民を熱狂させた。英国最大かつ最古の民間放送局であるITVが英国時間4日午後5時からバーチャルグランドナショナルを「Who Will Win The Race That Never Was?」(かつて行われたことのない“レース”で勝つのはどの馬か?)と銘打って生中継した。ピーク時には480万ビューがあり、これは英国全体のテレビ視聴者数の30%に至るほどの大反響となった。
レースは5番人気の18倍オッズが付いたポッターズコーナーが下馬評を覆して勝利。2018年、19年のグランドナショナルを制して史上初の3連覇に挑んだタイガーロールは5倍オッズの1番人気に推されたが、4着に終わって前“馬”未到の記録を打ち立てることは出来なかった。
イギリスジョッキークラブもまた意気な計らいをした。同ジョッキークラブは来年“リアル”に行われるであろう「グランドナショナル2021」の1万枚の入場チケットを、新型コロナウイルスと真っ向から戦っている英国民保健サービスに寄贈することを決めたのだ。
賭け事やバーチャルは何だか胡散臭いと思う人もいるかもしれない。しかし、バーチャルでの競馬レースで人々がひと時の楽しみを堪能し、ブックメーカーがスポーツベッティングサービスを提供して、そこから得た収益をコロナと戦う人たちに回すという循環は、むしろ素敵なことだと言えるのではないか。
JRAも無観客ながら競馬レースを開催している。無観客で行われた初のG1レースとなった高松宮記念では電話およびネット投票で127億円超の売り上げがあったという。しかし、この売り上げが国難とも言える状況に何か一石を投じているかは首をかしげてしまう。
ブックメーカー「ウィリアムヒル」は2021年4月10日にエイントリー競馬場で行われるグランドナショナル2021の“リアル”開催を信じて、早くもオッズを発表。“バーチャル”では3連覇を逸したタイガーロールが21.00倍のオッズで1番人気となっており、“リアル”3連覇への期待がすでに高まっている。